高齢化が進む日本社会では、認知症や知的障がい、精神障がいなどにより判断能力が低下した方を法律面で支援する「成年後見制度」の活用が増えています。
ただし、利用には一定の制約や注意点もあるため、事前に制度について十分理解するのが重要です。
今回は、成年後見制度を検討している方に向けて、注意点を解説します。
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を法律的にサポートする制度です。
主に「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があり、それぞれの特徴と利用目的が異なります。
法定後見制度は、すでに判断能力が低下している方を対象に、家庭裁判所が後見人等を選任する制度です。
「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。
類型 | 対象 | 備考 |
後見 | 意思判断がまったくできない状態のひと | 原則としてすべての法律行為の代理・取り消しが可能 |
保佐 | 判断能力が不十分な状態のひと | 本人が重要な法律行為を行うときは、保佐人の同意が必要。申立てにより裁判所が定める行為の代理・取り消しが可能 |
補助 | 判断能力が一部不十分な状態のひと | 原則として本人の判断能力を尊重しつつ、必要な範囲で補助人の同意や代理権を付与 |
法定後見開始の審判の申立てには、手数料のほか、戸籍謄本や診断書などさまざまな書類が必要です。
任意後見制度は、本人にまだ判断能力がある段階で、将来に備えてあらかじめ後見人を選んでおく制度です。
契約によって後見人の権限範囲を指定できるため、柔軟な対応が可能です。
成年後見制度は有用な制度ですが、利用にあたってはいくつか注意点があります。
それぞれ確認していきましょう。
法定後見制度を開始すると、原則として本人が亡くなるまで制度は継続します。
一時的な判断能力の低下による申立ては、かえって本人の自己決定権を制限するリスクがあるため注意が必要です。
成年後見制度の利用開始後は、後見人による財産管理が中心となり、本人が自由に財産を使うのが難しくなります。
たとえば本人が家族へ贈与したいと希望しても、原則として後見人の判断では実行できない場合があります。
家庭裁判所の許可が必要な場面も多く、柔軟な財産処分が困難になるかもしれません。
申立て時に「家族が後見人を希望」しても、選任されるとは限りません。
本人と家族の関係性や財産規模、過去のトラブルなどを総合的に考慮し、家庭裁判所が最終的に判断します。
近年では、利害関係の排除などを理由に、司法書士や弁護士といった第三者の専門職が選任されるケースもあります。
報酬の目安は、月額数万円程度です。
後見人には、家庭裁判所の監督があります。
不動産の売却や高額な支出を行う際には、裁判所の許可が必要となる場面も多く、手続きには時間や手間がかかります。
また、定期的に収支報告を行い、使途や残高について説明責任を果たす必要もあります。
成年後見制度は、財産管理だけでなく、本人の生活・療養・介護などの「身上保護」にも配慮します。
たとえば施設入所の契約や医療方針の判断など、生活に関わる重要な意思決定が求められる場面も珍しくありません。
後見人は、本人の希望や家族との関係性も踏まえ、適切な対応を取る必要があります。
任意後見制度は、あらかじめ契約で後見人を定める点で柔軟性に優れています。
しかし、実際の運用には注意が必要です。
任意後見契約は、将来の本人の意思を実現するための道具ですが、内容に不備があると適切に保護されない可能性があります。
財産管理の範囲や報告義務の有無など、具体的な条項の設計は慎重に進めてください。
任意後見は、契約を結んだだけでは効力を持ちません。
本人の判断能力が低下したときに、医師の診断書をもとに家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行い、初めて後見人としての権限が発効します。
成年後見制度は強力な支援制度ですが、制約が多いため、状況によっては他の方法で代替できるケースもあります。
最近では「家族信託」を活用して、柔軟な財産管理を行うケースが見られるようになりました。
家族信託は、財産を信頼できる家族に託して、本人の意思を尊重しつつ生活や資産運用をサポートできる仕組みです。
任意代理契約を結び、判断能力があるうちに信頼できる代理人に特定の事務を委ねる方法もあります。
ただし成年後見と異なり、本人が判断能力を失った後には無効になるリスクがあるため注意が必要です。
成年後見制度は、判断能力が低下した方を法律的に守る制度として重要な役割を果たしています。
しかし一度開始すると取り消しが難しく、財産の自由度や手続き面での制約が大きい点には注意が必要です。
制度の仕組みを十分に理解し、利用者の目的や家族構成、財産状況に応じた最適な方法を選びましょう。
不安がある場合は、司法書士などの専門家への相談も検討してください。