成年後見制度の利用手順を知っておくことが、判断能力低下への備えになります。
そこで、どのような手続が必要なのか、どのような流れで進めていくのかを当記事で解説します。また、成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」がありますので、両制度に分けてそれぞれの流れを説明していきます。
成年後見制度を利用するにあたり、制度の内容、手続の方法などを理解しておく必要があります。制度による保護を受けようとする本人、あるいはその申し立てを行う方も、まずは成年後見制度に詳しい専門家に相談することから始めましょう。司法書士や弁護士などの実務家、あるいは自治体で相談窓口を設けていることもあります。
現状を踏まえ、そもそも成年後見制度を利用するのが適しているのかどうかの判断をしてもらいます。その上で、後見等が開始されることでどうなるのか、何をしないといけないのか、といったことのアドバイスをもらいましょう。
コストについても無視はできません。後見等の開始までにかかるコストと、その後後見人や監督人などに対する報酬としてのコストが発生します。それぞれいくらほど必要になるのか、司法書士などに聞いておくと良いです。
申立自体に大きなコストはかからないのですが、家庭裁判所が「鑑定」が必要と判断したときには別途鑑定料として10~20万円ほどが発生します。
また、後見人や監督人に対しては、月々数万円ほどのランニングコストがかかるのが一般的です。本人の財産状況を鑑みて金額は設定されますが、これらのコストについても考慮した上で成年後見制度の利用を検討する必要があります。
それではまず、「法定後見制度」を利用するまでの流れを説明していきます。法定後見制度には①成年後見、②保佐、③補助の3つのタイプがあり、どのタイプを選択するのか、そして後見人等にどのような権限を与えるのかにより申立内容も変わってきます。
法定後見は本人の判断能力に問題が生じてから利用する制度ですので、判断能力が不十分になったことを示すために、医師による診察を受ける必要があります。医師の診察結果が法定後見の審判結果を決定づけるものではありませんが、重要な判断材料となります。
また、判断能力低下の程度も法定後見制度においては重視されます。状況に応じてどの審判を申立てるのかが変わってくるからです。
なお、成年後見制度は“精神上の障害によって”判断能力が不十分になっていることが大前提です。身体上の障害が原因となり契約などができないときに利用できる制度ではありません。そのため医師に書いてもらう診断書から、“精神上の障害”が原因である旨を読み取れる必要があります。
医師が成年後見制度に詳しいとは限りませんので、司法書士などにも協力してもらい、申立資料としてふさわしい形で作成してもらうように対応してもらうことが大事です。
診察結果も受け、申立内容も定まれば、家庭裁判所に申立をするための具体的準備に入ります。そこで以下の必要書類を取得、あるいは作成していきます。
これらは基本的な必要書類であり、財産状況に応じて別途求められる書類が発生することもあります。家庭裁判所にも問い合わせて、何が必要なのかを把握した上で準備に取りかかると効率的です。
必要書類と費用を納めて、申立を行います。
成年後見人が選任されるとき、その人物には本人のする行為全般につき代理権が付与されます。
一方で選任されるのが保佐人であるとき、代理権を付与するには申立のときに代理の対象となる行為を指定しないといけません。同意権の範囲を広げたい場合も同様です。なお、代理権を付与する場合や同意権の範囲を広げる場合は、本人の同意が必要となります。
補助人の選任においては、申立にあたり本人の同意が必要です。そして特定の行為を指定して同意権が付与されます。補助人の権限を広げるためにはやはり別途行為を指定した上で申立をしないといけません。
申立に問題がなければ、家庭裁判所が後見等の開始の審判を下します。
なお、審査には数ヶ月の期間を要することもあり、その間、必要に応じて本人や申立人、親族などと面接が行われることもあります。そこで後見開始等に関する意見を聞かれたり、本人の状態を確認されたりします。
審判のあと2週間以内に不服申立がないときは審判が確定し、後見登記が行われます。
以降、法定後見制度に基づく本人の支援が始まります。
次に、「任意後見制度」を利用するまでの流れを説明していきます。任意後見制度は事前対策として行うことになりますので、主に本人が主導して手続を進めていくことになります。
まずは、本人が「任意後見受任者」を探さなければなりません。人として信頼できる人物、任意後見人として適切な職務を遂行できるだけの力を持つ人物を見極めないといけません。その人物と任意後見契約を締結することになるのですが、後々契約内容に背くおそれのある人物は避けなくてはなりませんし、本人の能力不足で適切に契約内容を履行できないといった事態も避けなくてはなりません。
親族を任意後見人とすることもできますが、親族以外の第三者を任意後見人にすることもできます。司法書士や弁護士、社会福祉士などの実務家を指定することで「契約通りにきちんと仕事できるだろうか」といった心配は持つ必要なくなります。
第三者を指定することに不安を感じる方もいるかもしれませんが、任意後見制度においては任意後見監督人の選任が必須とされていますので、あまり心配しなくても良いです。家庭裁判所が選ぶ監督人がチェックしてくれますので、任意後見といっても家庭裁判所の下で保護を受けられます。
なお、任意後見受任者の選び方だけでなく、「任意後見契約の内容」の検討もとても重要です。例えば預貯金の管理、不動産の管理、年金の受け取りや公共料金の支払いなどの財産管理。介護サービスの申込、入院手続などの介護生活の手配など、委任内容を吟味して定めていきましょう。
契約内容が定まれば、公正証書として契約書を作成します。公正証書の作成は任意後見制度で必須の工程です。
契約を締結しただけだと任意後見の効力は生じません。その後本人の判断能力が不十分となり、後見を開始すべきタイミングになってから、家庭裁判所に申立を行う必要があります。
これは直接的には「任意後見人の選任手続」ではなく、「任意後見監督人の選任手続」です。
任意後見監督人が家庭裁判所から選任されることで、任意後見契約に基づく任意後見が開始されます。
そこで法定後見制度同様に申立書を作成し、戸籍謄本などの添付書類、財産状況を示す資料も取得・作成していきましょう。また、任意後見においては「任意後見契約公正証書の写し」も必要です。
必要書類と費用を納めて、申立を行います。
申立ができるのは、本人と任意後見受任者、配偶者・4親等内の親族です。自動的に任意後見の効力が生じないため、普段から本人の様子を確認できる人物がいることが大事です。また、その人物に対して任意後見契約締結の事実を伝えておくことも必要です。
本人と任意後見受任者が秘密裏に契約を交わしている場合、申立をすべきタイミングでこれができない可能性が高まってしまいます。
申立内容に問題なく、任意後見監督人が選任され、そして任意後見に関する登記が完了すると、任意後見が開始されます。
任意後見人は、本人と一緒に定めた契約内容に従い、職務遂行に努めます。なお、任意後見契約は委任契約の1種であるため、別途報酬の定めを置かなければ無報酬となってしまいます。報酬を定めるときは、契約書を作成する際にその条項を置いておかなければなりません。